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メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎(MRSA腸炎)の特徴と発症メカニズム

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎(MRSA腸炎)の特徴と発症メカニズム

抗生物質は腸の中にいる善玉菌も殺してしまうため、服用することによって腸内細菌バランスが崩れることがあります。そして、その結果発症してしまう病気を総称して菌交代症といいます。

 

代表的なものに、クロストリジウム・ディフィシル感染症、抗生物質起因性出血性大腸炎、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎などがあります。ここではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎の特徴について解説していきます。

 

なお、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎はMRSA腸炎と略されるので、ここでもそのように略して記載します。

 

※ MRSA:メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を表す英語 “methicilline-resistant Staphylococcus aureus” の略

 

また、以上に挙げたような感染症の発症メカニズムが解明されている中、なぜ罹患者が完全にいなくならないのかについて、疑問を持つ方も少なくないと思います。そこで今回は、MRSAを例に、抗生物質の開発と耐性菌(抗生物質が効かない細菌)の進化ついても紹介したいと思います。

 

MRSA腸炎の症状と発生状況

MRSA腸炎は、胃切除などの手術を行った高齢患者が抗生物質を使用した場合に発症することがあります。原因となる抗生物質は、ペニシリン系あるいはセフェム系という種類の抗生物質です。これらの抗生物質は、「細菌の細胞壁合成を阻害する」というメカニズムで殺菌作用を示します。

 

※ 細菌の細胞壁というのは、人間で例えると、皮膚のようなものです。これを作れなくするため、細菌は死んでしまいます。

 

主な症状として、発熱、腹痛、嘔吐、下痢があります。重症化した場合は、米のとぎ汁のような白色の下痢が表れます。場合によっては、急性腎障害や多臓器不全を引き起こし、命の危険に繋がることもあります。また、大腸だけでなく、小腸にも粘膜傷害が観察されるという特徴があります。

 

MRSA腸炎の症状が出た時の対処として、原因となっている抗生物質の使用中止と、MRSAに有効なバンコマイシンという抗生物質の投与が行われます。ただし、バンコマイシンに耐性を示すVRSA(Vancomycin-resistant Staphylococcus aureus)という黄色ブドウ球菌もいるため、注意が必要です。

 

またMRSAは、院内感染を起こしやすい細菌として有名です。このため、多くの病院ではMRSAに対する院内感染防止対策が定められています。ただ、国内では、1980年代後半に患者が急増しましたが、その後は減少傾向にあります。この傾向は抗生物質起因性出血性大腸炎という別の菌交代症と同じです。

 

このように、MRSA腸炎患者自体は減少しています。ただ、発症すると重症化したり、院内感染を引き起こす可能性があったりするため、注意が必要です。

 

なお、補足ですが、日本以外の国からはMRSA腸炎の症例報告がほとんどありません。これについては医療関係者の中で、いろいろ議論されているようですが、はっきりとした理由は分かっていません。

 

次に、原因菌の特徴と発症メカニズムについて解説していきます。

 

MRSA腸炎の原因菌と発症メカニズム

病名から推測できるとおり、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌という細菌が腸内で異常増殖することが原因です。

 

この細菌は腸の中だけでなく、鼻の粘膜や喉に定着していることが多い細菌です。そのため、咳などによって感染が広がることもあります

 

MRSAはさまざま毒素を産生することが知られています。中でも、TSST-1(toxic shock syndrome toxin1)という強力な毒素を産生する場合があります。この毒素が産生されると、臓器不全などを引き起こして、最悪の場合、死に至ることがあるため、極めて注意が必要です。

 

以上のことをまとめると、MRSA腸炎の発症メカニズムは以下のようになります。

 

1. 手術後など、抵抗力が落ちている時に、ペニシリン系やセフェム系という抗生物質を使用する。
2. 抗生物質に耐性のある(=抗生物質が効かない)MRSAが腸の中で増殖する。
3. 増殖したMRSAがさまざまな毒素を産生する。この時、TSST-1という強力な毒素を産生することもある。
4. 小腸の粘膜傷害、腹痛、嘔吐、下痢などが引き起こされる。重症化すると白色の下痢が現れ、最悪の場合、死に至る。

 

このように、MRSA腸炎の発症メカニズムは解明されており、現在では、バンコマイシンなどの抗生物質を用いて治療が行われています。しかし、バンコマイシンにも耐性を示すMRSAが存在することも事実です。

 

次に、このような抗生物質の開発と耐性菌の進化ついて、MRSAを例に解説したいと思います。

 

抗生物質の開発と耐性菌の進化

上述の通り、MRSAは「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)」の略です。まずは名前にも使われている「メチシリン」という抗生物質について解説したいと思います。

 

メチシリンは、ペニシリン系という種類の抗生物質です。セフェム系という抗生物質と同じく、「細菌の細胞壁合成を阻害する」というメカニズムで殺菌効果を示します。

 

一般的に、これらの抗生物質に対する耐性菌は、β-ラクタマーゼという酵素を作っています。この酵素がペニシリン系やセフェム系抗生物質を分解して無効化してしまいます。そのため、細菌は耐性を示します。

 

一方、メチシリンには他のペニシリン系抗生物質とは異なり、「β-ラクタマーゼによって分解されない」という特徴があります。このため、β-ラクタマーゼを作る細菌に対しても殺菌作用を示します。

 

しかし、MRSAはこのメチシリンに対しても耐性を示すという特徴があります。メチシリンが効かないようなメカニズムで細胞壁を作る能力を手に入れたためです。

 

このように、抗生物質の開発と、耐性菌の出現というのは、一種の「いたちごっこ」のような関係にあります。現在はバンコマイシンがMRSAに対してある程度有効ですが、その耐性菌も実際存在するため、このいたちごっこはこれからも続くと予想されます。

 

今回述べてきたように、抗生物質の使用法を誤れば、菌交代症という新たな病気に繋がってしまう可能性があります。感染症の予防や治療を目的に使用された薬剤が、新たな病気を引き起こすというのは皮肉なことです。

 

これを防ぐためにも、患者さんやご家族も医療に対して受け身になりすぎず、医師の説明をよく聞いて注意点を把握しておくよう心がけましょう。そして、服用中は体調の変化に注意し、少しでも異常があれば積極的に医師に伝えるようにすることが重要です。そうすることによって、重症化する前に対処することができます。

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