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驚異の治療法「便移植」がクロストリジウム・ディフィシル感染症克服の鍵

驚異の治療法「便移植」がクロストリジウム・ディフィシル感染症克服の鍵

腸における菌交代症(抗生物質が原因で腸内細菌バランスが崩れて発症する疾患)の中で、クロストリジウム・ディフィシル感染症は最も重篤な疾患です。

 

重症化すると、偽膜性大腸炎(ぎまくせいだいちょうえん:大腸に黄白色の斑点と炎症が広がる疾患)という腸炎を発症し、最悪の場合は死に至ってしまいます。

 

実際にアメリカでは毎年50万人が罹患し、そのうち3〜5万人が死亡しています。そのため、アメリカ政府も問題視しています。また、日本では毎年10万〜18万人が罹患していると推計されており、アメリカ同様、増加傾向にあります。

 

ここでは、クロストリジウム・ディフィシル感染症に対する従来の治療法と、2013年に報告された画期的な治療法について解説していきます。

 

なお、クロストリジウム・ディフィシル感染症はCDI と略されるので、ここでもそのように略して記載しています。

 

※ CDI: クロストリジウム・ディフィシル感染症を表す “Clostridium difficile infection” の略

 

これまでのCDI治療法

CDIに対する標準的な治療法は、バンコマイシンやメトロニダゾールという抗生物質の投与です。また、抗生物質に加えて腸の洗浄を同時に行うこともあります。しかし、いずれの場合も、治癒率は30%前後と、満足できる治療成績は得られていません。

 

※腸の洗浄:マクロゴールという薬剤で排便を促進します。これは、大腸内視鏡検査を行う前にも用いられる薬です。

 

さらに一時的に治癒したように見えても、再発してしまうことが多いのもCDIの特徴です。そのため、患者や医療関係者をずっと悩ませてきました。

 

このような状況だったため、2013年に報告された画期的な治療法は世界中の注目を集めることとなりました。

 

画期的なCDI治療法

2013年、CDIに対する画期的な治療法が、「New England Journal of Medicine」という臨床医学系の一流科学雑誌に掲載されました。

 

その治療法は、便細菌叢移植(べんさいきんそういしょく)あるいは単に便移植と呼ばれるものです。

 

※ 便細菌叢移植はFMTと略されることがあります。これは、該当する英語 “fecal microbiota transplantation” の略です。

 

医療の現場で「移植」と言うと、骨髄移植や臓器移植を思い浮かべる人も多いと思います。しかし、今回紹介する移植では、そのような体にとって重要なものを扱いません。

 

むしろ、私たちが毎日不要なものとして排泄している「便」を扱うのです。つまり、便移植という治療法は、ドナーのうんちを患者さんのお腹の中に移植する、という驚きの治療法なのです。

 

この驚異的な治療法をCDI患者さんに試し、従来の治療法と比較したのは、オランダ・アムステル大学の若手医師でした。そして、衝撃的な結果が得られたのです。なんと16名の患者さんのうち、15名が再発することなく治癒したのです。16名中15名なので、約94%に該当します。

 

抗生物質による治癒率が30%前後であったことを考えると、いかに効果的な治療法であるか理解できます。

 

この論文報告は瞬く間に世界に広がり、多くの病院に取り入れられました。日本も例外ではありません。日本のいくつかの大学病院では、便移植が実際に行われています。しかも、CDIだけに限らず、他の腸疾患にも応用されています。

 

ここで、今一度、健康な人の腸内環境がどうなっているか振り返ってみたいと思います。

 

健康な腸内環境と便移植

健康な人にもCDIの原因となるクロストリジウム・ディフィシルが定着していることはあります。しかし、善玉菌を含む周りの多様な細菌が、この細菌の働きを抑制しています。この時、抗生物質の影響で菌交代現象(腸内細菌バランスが崩れて、抗生物質が効きにくいタイプの細菌が増えること)が生じると、CDIが発症してしまうのです。

 

この原点に立ち返ると、「善玉菌を含む多種多様な細菌を大量に腸の中に送り込む」という便移植は、極めて合理的な治療法であると言えます。

 

しかし、開発したNieuwdorp先生は、このような合理的な考えに基づいてこの治療法の発想を得たというわけではなさそうです。彼がこの治療法に辿り着いたきっかけは、「患者を助けたい」という思いで治療法を調べ、1958年の論文を見つけたことです。

 

その論文には既に便移植の有効性が記載されていました。ただ、対象患者が4人と少なかったり、他の治療法と比較していなかったりしたため、あまり注目を集めることはなかったようです。

 

Nieuwdorp先生は、この論文を参考にして、今回、改めて便移植の有効性を示したのです。そして、従来の治療法と比べて圧倒的に良い治療成績を出せたことで、便移植は世界中に広がりました。

 

このように、私たちが毎日「不要なもの」として排泄している「便」が、病で苦しんでいる患者さんの治療に役立つ可能性があります。

 

この便移植という治療法に驚かれた方もいるかもしれません。しかし、何よりすごいのはその効果です。つまり、腸内細菌が持つ人体への影響力です。このことを認識すると、腸内環境を健全に保つことがいかに大事か理解できると思います。健康な日々を送るためにも、腸内細菌バランスを整える食生活を心がけてみてください。

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