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腸内細菌研究者がお届けする『腸』役立つ健康メソッド

便移植が開拓する新たな治療戦略

便移植が開拓する新たな治療戦略

抗生物質の服用が原因で、クロストリジウム・ディフィシル感染症という重篤な病気にかかることがあります。これは腸内細菌バランスが崩れて、腸内でクロストリジウム・ディフィシルという悪玉菌が急増することで引き起こされる病気です。

 

この疾患に対する治療には、バンコマイシンやメトロニダゾールと呼ばれる抗生物質が用いられてきました。しかし、治癒率は約30%と低く、あまり満足できる治療成績は得られていません。

 

一方、新たに有効性が示された「便移植」と呼ばれる治療法があります。これは「健康な人のうんちを患者の腸内に注入する」という驚きの治療法です。

 

この治療方法に驚かれる方もいるかもしれませんが、もっとすごいのがその効果です。なんとこの治療法の治癒率は90%以上であることが示されています。そのため、有効性が示された2013年以降、この治療法は確実に世界に広がっています。

 

日本も例外ではありません。国内にあるいくつかの大学病院では、クロストリジウム・ディフィシル感染症をはじめ、潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群といった、他の腸疾患にまでこの治療法が応用されています。

 

潰瘍性大腸炎やクローン病は、厚生労働省が特定疾患(≒難病)に指定している病気です。もし便移植がこれらの疾患に対しても有効なら、これらの病に苦しんでいた数多くの患者さんを救うことができます。

 

このように、便移植は医療従事者に大変期待されている治療法なのです。

 

ここでは、便移植に対するアンケート調査の結果と、医療機関や製薬会社の取り組みについて紹介したいと思います。上記疾患に対する新たな治療選択肢となりますので、この機会に理解を深めていきましょう。

 

なお、クロストリジウム・ディフィシル感染症はCDIと略されることがありますので、ここでもそのように略して記載します。

 

※ CDI: クロストリジウム・ディフィシル感染症を表す “Clostridium difficile infection” の略

 

※ 便移植はFMT (fecal microbiota transplantation)と略されることがありますが、ここでは略さずに記載します。

 

便移植に対するアンケート調査

まず、「便移植」と聞いてどのような印象を持ちましたでしょうか? 「信じられない」「汚い」「気持ち悪い」といった印象を持たれる方が多いと思います。私も最初聞いた時はそうでした。

 

しかし、先程も述べたように、この治療法はCDIに対して驚異的な治療成績を示します。

 

この事実を考えると、「汚い」とは言っていられません。実際に、米国でCDI患者400名を対象に実施されたアンケート調査からも、この治療法に対する期待の高さが伺えます。

 

<米国でのアンケート調査> (2012年に科学雑誌「Clinical Infectious Disease」に掲載された論文より)
400名のCDI患者のうち、15%の患者が「従来の抗生物質を用いた治療」を希望したが、残りの85%が「便移植による治療」を希望しました。さらに、94%の患者は、「主治医が推奨した場合は便移植を受ける」と回答していました。

 

このアンケート結果から、CDI患者は「従来の抗生物質による治療に満足していない」ということと「便移植に期待している」ということが読み取れると思います。

 

ただ、汚いとか、気持ち悪いという考えも理解できます。そこで、このような心理的な負担を軽減するために、医療機関や製薬会社が行っている取り組みについて解説したいと思います。

 

便移植に関する医療機関や製薬会社の取り組み

便移植の手順を簡単に示すと以下のようになります。

 

1. 健康な人の便50〜200 gに生理食塩水を混ぜる。
2. フィルターでろ過して固形物を取り除く
3. 得られた液体を、経鼻チューブを使って、十二指腸に注入する。

 

※ 経鼻チューブとは鼻の穴から入れる細いチューブのことです。チューブの先端は喉、食道、胃を通って、十二指腸まで届きます。

 

まず、経鼻チューブを用いるという注入方法に抵抗感を示す方がいます。自分の鼻の中を他人のうんちが通過するわけですから、その気持ちは理解できます。実際、米国のアンケート調査でも「経鼻」であることに嫌悪感を示す回答がありました。

 

そこで、いくつかの医療機関では大腸内視鏡が用いられるようになりました。この場合は、鼻からではなく肛門から注入することになります。

 

大腸内視鏡を用いた場合、注入後に肛門から注入液が漏れてくることがあります。そのため、片栗粉のようなものを事前に混ぜて、とろみを加えておくという工夫も施されています。

 

このように、患者さんの心理面における負担を軽減しつつ、効果が落ちないような施術方法が考案されています。ほかにも、誰の便を用いるのか? や、病原性は大丈夫か? などについても対策が練られています。

 

一方、製薬会社でも新たな取り組みを行っています。米国では複数のベンチャー企業が、有効な腸内細菌だけを分離し、便の臭いや色のない錠剤やカプセルを開発しています。このような薬であれば、患者さんの心理面での負担をなくすことが可能です。

 

このような製薬会社の動きに、「ブルームバーグ・ビジネス」という米国のビジネス雑誌が反応しました。米国の金融中心地として有名なウォール街という地区がありますが、投資家向けの記事の中で、“Wall Street loves feces” (ウォール街はうんちを愛している)という一文で、ベンチャー企業を紹介したのです。

 

このように、便移植という治療法が脚光を浴びたことにより、新しい薬の開発が行われるようになりました。その影響は米国の金融市場にまで広がっています。

 

この新しい薬剤は、CDIのみならず、潰瘍性大腸炎やクローン病といった難病にも有効である可能性があるため、多くの医療関係者が注目しています。そして、このような薬が一人でも多くの患者さんに届けられ、効果を示すことが期待されています。

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