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抗生物質使用時に注意が必要な菌交代症

抗生物質使用時に注意が必要な菌交代症

私たちのお腹にいる500〜1000種類の腸内細菌の中には、病原性を示すものが少なからず存在します。ただし、腸内環境が健全に保たれている場合は、善玉菌が産生する酢酸や他の腸内細菌の影響により、これらの病原性細菌の活動は抑制されています。

 

しかし、抗生物質を服用すると、多くの腸内細菌が殺菌されてしまいます。もちろん善玉菌も例外ではありません。この時、もし善玉菌や他の腸内細菌に抑制されていた病原性細菌が、抗生物質の効かないタイプだった場合、どうなるでしょうか?

 

活動を抑制していた周りの菌がいなくなるため、これらの病原性細菌は活発に活動をし始めます。そして腸の中で異常に増殖してしまうことがあります。

 

このように、通常であれば増殖することのない細菌が、抗生物質の影響により急増してしまうことを菌交代現象といいます。そして、菌交代現象の結果、生じる疾病を総称して菌交代症といいます。

 

菌交代症は重篤な症状に発展する場合もあるため、注意が必要です。ここでは、代表的な菌交代症の概要と原因について解説していきますので、理解を深めていきましょう。

 

代表的な菌交代症

腸における代表的な菌交代症として、「クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)感染症」があります。またその他の菌交代症として、「抗生物質起因性出血性大腸炎」や「メチシリン耐性黄色ブドウ球菌腸炎」があります。なかなか難しい名前ですが、いずれも菌交代現象が原因で生じる腸炎です。

 

これらの疾病はそれぞれCDI、AAHC、MRSA腸炎というふうに略されますので、ここでもそのように略したいと思います。

 

※ CDI: クロストリジウム・ディフィシル感染症を表す英語“Clostridium difficile infection” の略
※ AAHC: 抗生物質起因性出血性大腸炎を表す英語“antibiotic-associated hemorrhagic colitis” の略
※ MRSA: メチシリン耐性黄色ブドウ球菌を表す“methicillin-resistant Staphylococcus aureus”の略

 

CDIの主な症状は、下痢、粘性のある便、腹痛、吐き気、発熱などです。場合によっては、偽膜性(ぎまくせい)大腸炎という重篤な症状に発展することもあるため、注意が必要です。

 

また、病名から推測できるとおり、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)という細菌が異常に増殖することにより発症します。この細菌は私たちの腸の中にすでに定着している可能性があるので、誰でもCDIを発症する可能性を抱えていると言えます。

 

ただ、ほとんどのCDIは、入院中における抗生物質の使用が原因となります。これは、「手術」や「免疫抑制剤の使用」といった、入院中の処置がCDI発症と関係しているためです。このことから、特に入院中に抗生物質を使用する場合は注意が必要となります。

 

一方、AAHCはペニシリン系やセフェム系と呼ばれる抗生物質を使用した場合に発症する可能性のある菌交代症です。突然の腹痛やトマトジュースのような血液の混じった下痢が症状として現れます。

 

AAHCはCDIと違って、命の危険を伴うような症状に発展することはありませんし、ほとんどの場合は、原因となっている抗生物質の使用を中止すれば改善します。

 

またMRSA腸炎は、手術後の高齢患者がペニシリン系やセフェム系抗生物質を使用した場合に発症することがあります。発熱や腹痛の他、米のとぎ汁のような白色の下痢が特徴的な症状として表れます。重症化することもあるため注意が必要です。

 

このように、菌交代症の中には重症化するものもあります。AAHCとMRSA腸炎は減少傾向にありますが、CDIに関しては毎年患者数が増加しているため、今後も注意が必要な疾患です。

 

抗生物質と薬剤耐性菌

抗生物質という薬には、細菌の増殖を抑制したり、殺菌したりする効果があります。世の中にはさまざまな種類の抗生物質があり、細菌に対する作用の仕方も多種多様です。

 

例えば、「細菌の持つ特殊な細胞壁の合成を阻害する」というタイプの抗生物質があります(細菌の細胞壁というのは人間の皮膚のようなものです。これを作れなくするため、細菌は死んでしまいます)。これには、上述のペニシリン系やセフェム系という抗生物質が該当します。

 

その他に、「細菌のタンパク質合成を阻害する」というタイプのものや、「DNAの複製を阻害する」というタイプの抗生物質もあります。

 

このように医療現場ではさまざまな種類の抗生物質が使用されています。そして注意しなければいけないのが、中には「抗生物質が効かないタイプの細菌がいる」ということです。

 

抗生物質が効かない原因としては、「抗生物質が細菌の中に入らない」、「細菌が抗生物質を分解したり、別の物質に変換したりする」、「細菌が抗生物質を体の外に排出する」、「細菌の遺伝子が変異する」などが挙げられます。

 

そして、このような抗生物質が効かない細菌のことを、薬剤耐性菌あるいは単に耐性菌といいます。

 

抗生物質を服用した場合、多くの腸内細菌が殺菌される一方で、耐性菌は生き残るため、一時的に腸内細菌バランスは崩れます。ただし、普通は抗生物質の使用を中止すると元の腸内細菌バランスに戻ります。

 

ではどのような場合に菌交代現象が生じるかについて以下に述べていきます。

 

菌交代現象が生じる要因

抗生物質を使用する際に、「免疫抑制剤を使用している」「手術などを行って抵抗力が落ちている」「多種類の細菌に効く抗生物質を長期間使用している」などの状況が重なると、腸内細菌バランスが元に戻らず菌交代現象が生じる場合があります。

 

先程も述べたように、「免疫抑制剤の使用」や「手術」というのは入院して行われることが多いため、これらの菌交代症は入院中に発症することが多いです。したがって、入院中には特に注意が必要となります。

 

ただ、患者側で注意できることは、「医師の指示に従うこと」と「症状が出たらすぐに医師に伝えること」くらいしかありません。

 

普通はしないと思いますが、自分勝手に抗生物質の使用量を減らしたり、途中で使用を中止したりしてはいけません。

 

そして、菌交代症が疑われる症状が出た場合、早期に医師に伝えることが重要です。そうすることによって、重症化する前に対処することができます。

 

このように、入院中における抗生物質使用は菌交代症の原因となることがあります。また、耐性菌は私たちのお腹の中にすでに定着している可能性があるため、菌交代症は誰にでも起こりうる病気です。そのため、抗生物質使用時に菌交代症が疑われた場合に備えて、毎日の便通や体の具合に敏感になっておくことが重要です。

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